中国留学体験記

University of California Irvine(TSA program) 留学

森 駿介

 「専攻は何?」という質問に「Chinese Studies」と答えると、友人は皆不思議な顔をします。「じゃあなんでここに来たの?日本からは逆方向じゃないか」と。

 中文コースの私が一年間を過ごしたのは、アメリカのカリフォルニア大学アーバイン校(以下UCI)でした。アメリカ留学は中文コースとしては珍しいかもしれませんが、個人的に、一年間中国で中国語だけを勉強するよりも、大きな大学で現地学生と同じ授業を受けることに興味がありました。もちろんこの学科で中国語学習が大切なことは帰国後痛感していますが(笑)。今回は私の留学体験の中での出会いと気づきについて、なるべく中文コースに関わる話を書かせていただこうと思います。

 まず、「出会い」について。UCIにはAsian American Studiesというコースがあります。アジア研究というのはわかりやすいですが、アジア系アメリカ人学なんて、なんだかわかりにくい響きです。アメリカでもマイナーな学問ですが、アジア系アメリカ人の歴史・文化を扱うこの授業は、なんとなく履修した私にとって驚きと発見の連続でした。

 Asian American Studiesへの興味をより深くさせたのが、現地のアジア系の友人たちです。私はUCIの和太鼓サークルに入っていました(実はカリフォルニアの太鼓コミュニティの規模と勢いは、おそらく日本以上です)。和太鼓ならメンバーは日系人ばかりかと思ったら、純日本人は、まさかの私一人だけ。あとは台湾系、カンボジア系、ラテン系などなど、それぞれ多様なバックグラウンドをもつ学生でした。

 他にもモン系、中華系、日系など、色々なAsian Americanコミュニティに混ぜてもらううちに気づいたことは、彼らは(例えば)台湾系アメリカ人、アジア系アメリカ人、アメリカ人という3つ以上のアイデンティティを同時に持っていて、それを人それぞれ、また場面に応じて使い分けているということ。そしてその多重のアイデンティティには良い点と悪い点があるということです。この発見が、私が現在取り組んでいる卒業研究のきっかけとなりました。

 そして「気づき」について。この発見が、振り返って、自分のアイデンティティについて考えるきっかけになりました。私は顔立ちが微妙なのと、日本人ぽくない英語の訛りがあることで、東南アジア系やラテン系ミックスと間違えられることがしばしばありました。肌の色、言語、国籍、宗教、セクシュアリティー…どれか一つだけの側面で人間を定義するなんて、あたりまえですが不可能です。日本ではついつい周りの目を気にしすぎてしまいますが、それもあまり意味のないことだと思い知らされました。

 留学の一年間で私が得たもの、それは(中文コースなのに)あえてアウトサイダーになることで思いがけず中華文化に対する面白い視点に出会えたこと、そしてなによりもその視点から自分を見つめる機会を持てたことです。Asian American Studiesとの出会いとアイデンティティの気づきが、振り返れば一連のストーリーになっていました。

 中文コースにいながらアメリカを留学先に選んだことは間違いではありませんでした。中国や台湾、日本で学ぶことだけが全てではないと思いますし、中国人が中国にしかいない、また中国には中国人しかいないというシンプルな時代ではないからです。